津地方裁判所 昭和40年(ワ)193号 判決 1970年5月28日
原告 国
訴訟代理人 中村盛雄 外六名
被告 松阪縮織株式会社 外九名
主文
被告松阪縮織株式会社と、訴外松阪紡織株式会社との間に昭和三八年四月一日なされた別紙目録二、および別紙目録三、記載の物件の譲渡はこれを取消す。
被告松阪縮織株式会社は原告に対し別紙目録三、記載の物件を引渡せ。
被告山村太一、同山村たま、同山村常夫、同山村和子、同山村好治、同山村きぬ子、同山村静子、同山村弘、同中湖幸子は別紙目録二、及び別紙目録三、記載の物件について、訴外山村市蔵と訴外松阪紡織株式会社との間の昭和三七年四月一日売買による所有権移転を原因としてこれが所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
(一九二号事件)
第一当事者の申立
原告指定代理人は請求の趣旨として一、被告松阪縮織株式会社と訴外松阪紡織株式会社との間に昭和三八年四月一日なされた別紙目録一、記載の物件の譲渡行為のうち、別紙二および別紙三記載の物件の譲渡はこれを取消し、二、被告山村太一、同山村たま、同山村常夫、同山村和子、同山村好治、同山村きぬ子、同山村静子、同山村弘、同中湖幸子(いずれも訴外山村市蔵の相続人)は、訴外山村市蔵名義の別紙目録二記載の建物について、右訴外人と訴外松阪紡織株式会社との間の、昭和三七年四月一日売買による所有権移転を原因として、これが所有権移転登記手続をせよ、三、被告松阪縮織株式会社は原告に対し別紙目録三、記載の事件を引渡せ、四、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決を求め、被告らは原告の請求はこれを棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。
第二当事者の主張
一 請求の原因
(一) (詐害行為の概要)
(1) 訴外松阪紡織株式会社(以下滞納会社と略称する)は松阪市船江町五五五番地において各種織物の製造および販売を目的として設立されたものであるが、昭和二九年三月八日名古屋国税局調査査察部の査察により法人税法違反の告発をうけ、その結果昭和二八年度の法人税等合計金一七五七万四、三〇四円の課税をうけたが、ほとんどこれを納付せず、昭和三八年三月三一日休業した。
(2) 被告松阪縮織会社(以下被告会社と略称する)は昭和三八年三月一三日設立された本店所在地および営業目的はすべて滞納会社と同一であり、代表取締役も滞納会社の代表取締役であつた訴外山村市蔵が就任して営業を開始したものである。
(3) ところで滞納会社は昭和三七年三月三一日現在において、当時の代表取締役であつた山村市蔵に対して金一五三六万二、一二三円の貸付債権を有していたところ、これを清算するために、昭和三七年四月一日山村市蔵の所有していた別紙目録二、記載の建物および松阪市船江町字大門五五四番地の三、宅地四七坪、同所字内方五一九番、宅地二七六坪(以上二物件売買代金一九三万一、〇〇〇円)ならびに機械装置等を滞納会社に譲渡しその譲渡代金の一部を右貸付債権と相殺した。しかし不動産については、これが所有権移転登記はなさず、山村市蔵名義のままとなつている。
(4) その後滞納会社は昭和三八年三月一三日の臨時株主総会において別紙目録二、記載の建物および別紙目録三、記載の機械装置を含む別紙目録一記載の資産、負債を目録の価格により被告会社に譲渡し、全事業を被告会社に移譲して休業する旨の決議をなした。一方被告会社においても、同日臨時株主総会を開催し、滞納会社の右決議事項にかかる財産を譲り受けることを決議した。そこで滞納会社は同年三月三一日休業するとともに、右両会社は同年四月一日右各決議事項にもとづいて、右建物および機械装置を含む資産負債の譲渡を行つたものである。しかし建物についてはこれが所有権移転登記をなさず、依然として山村市蔵名義となつている。
(5) ところが山村市蔵は昭和三八年三月三〇日死亡したので、同人の三男である被告山村太一が昭和三八年四月五日滞納会社および被告会社の代表取締役に就任した。
(二) (原告が滞納会社に対して有する国税債権)
原告(所管庁は名古屋国税局長)は滞納会社が被告会社に本件建物および機械器具を譲渡した昭和三八年四月一日現在において次のとおり合計金一、九二六万四、六六二円(外に滞納処分費三五六円)の租税債権を有していたものである。
記<省略>
(三) (滞納会社の右譲渡による資産の減少)
滞納会社は、右譲渡時である昭和三八年四月一日現在係争物件以外に次の資産を有していた。
(1) 松阪市船江町五五五番地の二
家屋番号 船江第六三番
建物一一棟 延床面積三一六坪八合
(右工場内にある工場抵当法第三条目録物件を含む。ただし本家屋には国税債権に優先する株式会社百五銀行の債権元本極度額二百万円の根抵当権が設定されている。)
(昭和二九年四月二三日差押処分済)
(2) 松阪市船江町字大門五五五番地の二
宅地 四〇三坪七合三勺
(本宅地には(1) の株式会社百五銀行の根抵当権が設定されている。)
(昭和二九年四月二三日差押処分済)
(3) 動産(什器備品)一六点
(昭和二九年五月二〇日差押処分済)
(4) 動産(前記工場抵当法第三条目録物件以外の機械)三三点(昭和三五年五月一九日差押処分済)
(5) 松阪市船江町字大門五五四番の三
宅地 四七坪
(本宅地は当庁昭和四〇年(ワ)第一九三号不動産所有権移転登記手続請求事件により移転登記手続を求めている)
(6) 松阪市船江町字内方五一九番
宅地 二七六坪
(本宅地は(5) の移転登記を求めている。)
(本宅地には別紙目録二の(一)記載の地上建物および同建物内にある工場抵当法第三条目録物件とともに国税債権に優先する株式会社百五銀行の債権元本極度額五〇〇万円の根抵当権が設定されている)
以上の物件の昭和三八年四月一日現在の価額は多くとも(1) および(2) は計金六四五万八、〇〇〇円(4) は金一八八万四、〇〇〇円(5) は金九万五、〇〇〇円および(6) は金六七万〇、〇〇〇円合計九一〇万七、〇〇〇円((3) は無価値である)であるが、右のとおり(1) および(2) の物件には国税債権に優先する金二〇〇万〇、〇〇〇円のまた(6) の物件には同じく金三二万七、三〇八円(根抵当権による被担保債権額金五〇〇万〇、〇〇〇円を共同担保物件の価額による按分した金額)合計金二三二万七、三〇八円の根抵当権の設定ある被担保債権があり、したがつて国税債権が担保されるのは金六七七万九、六九二円にとどまる。
したがつて、これらの資産のみを以てしては、前記国税債権金一、九二六万四、六六二円から右金六七七万九、六九二円を差引いた金一、二四八万四、九七〇円不足を生ずる。したがつて担保できないわけである。この限度において前記の譲渡行為(別紙目録一、記載の物件の譲渡)は国税債権を詐害するわけである。
そこで原告としては右譲渡行為のうち右一、二四八万四、九七〇円の国税債権額に近い価格を有する別紙目録二及び三の物件を本件詐害行為取消しの対象とするものである(その価額は昭和三八年四月一日現在で九一〇万七、七三〇円である)
なお滞納会社の昭和三八年三月三一日現在の貸借対照表によると右(1) ないし(6) のほか出資金三三万一、〇〇〇円、前払費用五七万八、三一六円があるが、出資金については、滞納会社に対して調査したところ、実体不明であり前払費用は未経過勘定であつて、翌期以降の費用に振替えされるものであつて、資産的なものであるが、徴収の目的たりえないものである。
(四) (本件譲渡時における詐害の意思の存在について)
本件譲渡時の当事者に詐害の意思があつたことは、次の事実により明らかである。
(1) 本件詐害行為の受益者は被告会社であるが、被告会社は滞納会社と本店所在地および営業目的が同じであり、かつ被告会社の代表取締役は滞納会社の代表取締役である山村市蔵が就任して設立されたものであり、滞納会社休業と同時にその業務はすべて被告会社に引き継がれ以来滞納会社は全く営業を行つていない。
(2) 滞納会社が本件営業を決議したのは、昭和三八年三月一三日の臨時株主総会であるが右総会は代表取締役山村市蔵が議長となつてとりきめられたものであり、一方被告会社においても同日臨時株主総会を開催して代表取締役山村市蔵が議長となり、滞納会社より本件譲受けを決議している。
(3) その後、昭和三八年三月三〇日に滞納会社および被告会社の代表取締役である山村市蔵が死亡したので、同人の三男である被告山村太一が同年四月六日に右両会社の代表取締役に就任し、同年四月六月付をもつて両会社の同年三月一三日の臨時株主総会において決議された本件譲渡契約の証書を作成し、取り交わしている。
(4) 当時既に租税債権の一部をもつて、訴外滞納会社所有の財産の一部について差押処分を受けており、しかも本件譲渡にあたり右差押財産ならびに租税債務が除外されている。
(5) 以上本件譲渡契約時における滞納会社の資産状況、各会社の代表取締役の身分関係、譲渡の態度等からみて右各会社は明らかに原告の租税債権を詐害することを目的として、本件譲渡契約をなしたものである。
尚、以上の措置は訴外滞納会社をして設備の増強近代化をした場合は原告国に対する租税債務のため、差押処分されることは必須であると考え被告会社を設立したものである。すなわち訴外滞納会社は当時現有する資産をもつてはその負担する債務の完済は、到底不可能であることを知つたからその挙に出たのであり、右事実をもつてしても債権者を害する認識があつたことは明白である。
(五) 以上によつて明らかなように、滞納会社と被告会社との間の本件譲渡契約は、国税通則法第四二条で準用される民法第四二四条の要件を充足する詐害行為であるから、原告は被告会社に対し、別紙目録一の譲渡資産、負債中別紙目録二および三記載の各物件に対する譲渡を取り消し、右物件中別紙目録三の機械装置についてその引き渡しを求める。
(六) 次に本件譲渡物件中別紙目録二記載の建物については、前述のとおり山村市蔵より滞納会社へ滞納会社より被告会社への各所有権移転登記手続がいずれも未了であり、現在山村市蔵名義になつている。
よつて原告は、国税通則法第四二条で準用される民法第四二三条により、山村市蔵が昭和三七年四月一日滞納会社に売却した別紙目録二記載の建物に対するこれが所有権移転登記手続の義務を承認した相続人である被告山村太一、同山村たま、同山村常男、同山村和子、同山村好治、同山村きぬ子、同山村静子、同山村弘同中湖幸子に対し右所有権移転登記手続を請求するものである。
二 被告らの答弁
(一)(1) 請求原因(一)の(1) 記載の原告主張事実中「訴外松阪紡織株式会社には、松阪市船江町五五五番地において、各種織物の製造及び販売を目的として設立されたものであるが、昭和二九年三月八日名古屋国税局調査査察部とより法人税法違反の告発を受けたこと、昭和三八年三月三一日休業した」ことはこれを認めるが、「その結果昭和二八年度の法人税等合計金一、七五七万四、三〇四円の課税を受けたが殆んどこれを納付せず」とある部分は不知である。昭和二八年度当時の訴外会社の代表取締役は亡訴外山村市蔵であり、同人が専権的に事業経営をなしておつたものであり、現在の代表取締役山村太一はその息子であつて、当時の事情については詳細は判らないものである。
(2) 請求原因(一)の(2) 記載事実中本店所在地が同一との点を除き(地番が違う)その他は認める。
(3) 請求原因(一)の(3) 記載事実中、不動産については山村市蔵のままになつていることは認める。その余の事実は不知、不知の理由については前掲(1) 記載の理由と同一である。
(4) 請求原因(一)の(4) 記載事実中、別紙目録二記載の建物の登記上の所有名義人が山村市蔵となつていることは認めるが、その余の事実は被告会社としては不知ないし否認、その余の被告らとしてはすべて不知である。
(5) 請求原因(一)の(5) 記載事実はこれを認める。
(二) 請求原因(二)の記載事実は不知。
(三) 請求原因(三)記載事実中「なお滞納会社の昭和三八年三月三一日現在の貸借対照表による、右(1) ないし(6) のほか出資金三三万一、〇〇〇円前払費用五七万八、三一六円がある。出資金については滞納会社に対して調査した処実体不明であり又、前払費用は未経過勘定であつて翌期以降の費用に振替えされるものであつて資産的なものであるが、徴収の目的にあたり得ないものである」との点は不知、その他の部分は否認。
仮に原告主張のとおりに別紙目録一記載の資産、負債が一括譲渡されたとしても滞納会社より被告会社に譲渡したる譲渡財産目録の資産之部の合計と負債の部(松阪紡織勘定含む)の各合計金額は一致しておる。従つて滞納会社が被告会社へ譲渡したる資産負債の差額は、松阪紡織勘定の四万四、四四四円丈であり、滞納会社の債権者たる原告国の担保力を減少したのは右金四万四、四四四円のみである。しかるに、原告は滞納会社の不動産、機械等を相当額差押えているのであるから、右の譲渡行為が詐害行為となるものでないことは明らかというべきである。
(四)(1) 請求原因(四)の(1) 記載事実中、「本件詐害行為の受益者は被告会社であるが」とある部分及び「滞納会社休業と同時にその業務はすべて被告会社に引継がれ」とある部分はこれを否認し、その余は認める。
(2) 請求原因(四)の(2) 記載事実は被告会社としては否認、その余の被告らは不知である。
(3) 請求原因(四)の(3) 記載事実中原告主張の日に山村市蔵が死亡したこと、原告主張の日に被告山村太一が滞納会社及び被告会社の代表取締役に就任したことは認めるが、その余の事実は被告会社としては否認、その余の被告らは不知である。
(4) 請求原因(四)の(4) 記載の主張は認める。
(5) 請求原因(四)の(5) 記載の主張は否認、滞納会社はぼう大なる法人税の課税を受けた外、滞納会社と代表取締役山村市蔵は昭和二九年法人税法違反事件として告発起訴せられ、罰金一〇〇万円の刑が確定した。右事情を聞知した右滞納会社の債権者で抵当権者である株式会社百五銀行は、右滞納会社に対し手形割引について難色を示すこととなり、担保の増額を要求するようになつた。
滞納会社としては巨額の滞納税金を有していたため、当時の業界が必要とした設備の増強近代化をなした場合はこれ等増強設備に対して差押をされる事は必然であり、これでは事業の継続が出来なくなる公算が大であつた。そこで亡山村市蔵はその生前において百五銀行の信用を保持し、金融操作のためと経理上必要があつたので、右滞納会社とは別個に松阪縮織株式会社を設立し紡織設備の近代化を実行せんとなしたものであつて、同人が債権者を詐害する意図は毫もなかつたものである。
(五) 請求原因(五)記載の主張は争う。
(六) 請求原因(六)内記載事実中、被告山村太一、同山村たま、同山村常夫、同山村和子、同山村好治、同山村きぬ、同山村静子、同山村弘、同中湖幸子が亡山村市蔵の相続人であること別紙目録二記載の建物が現在山村市蔵名義となつていることは認めるが、その余の主張は争う。
三 被告らの法律上の主張
かりに右譲渡行為が詐害行為になるとしても、国税通則法第四二条による援用規定は、国税徴収法第三八条の規定を適用しても租税徴収を完了出来ない場合に適用すべき規定でなく、即ち本件の場合はあくまで国税徴収法三八条の規定により処理すべきである。
四 被告の法律上の主張に対する原告の答弁
被告の主張に対し、国税徴収法(昭和三四年四月二〇日法律第一四七号(以下新法という))第三八条の規定は、同法附則第七条の規定によつて新法施行後に滞納となつた国税について通用されるもので、新法施行前に滞納となつている国税については従前の例によることとされている。而して新法の施行期日は国税徴収法の施行期日を定める政令(昭和三四年一〇月三一日政令一二二八号)によつて昭和三五年一月一日から施行されるものである。一方本件被詐害債権である租税債権は、昭和二九年四月一日ないし昭和三一年五月一日に滞納となつたものである。したがつて新法第三八条の規定の適用はなく従前の例によるものである。而して新法施行前の国税徴収法(明治三〇年三月二九日法律第一一一号)には新法第三八条に相当する規定はないので、事業を譲り受けた特殊関係者に対して第二次納税義務を課することは出来ない訳であると述べた。(証拠一九三号事件末尾)
理由
(一九二号事件)
訴外松阪紡織株式会社(以下滞納会社と略称する)は松阪市船江町五五五番地において各種織物の製造および販売を目的として設立されたものであるが、昭和二九年三月八日名古屋国税局調査査察部の査察により法人税法違反の告発をうけたこと、そして昭和三八年三月三一日休業したこと、一方被告会社がその直前の昭和三八年三月一三日に設立され、その営業目的はすべて滞納会社と同一であり代表取締役も滞納会社の代表取締役であつた訴外山村市蔵が就任して営業を開始したこと。ところが山村市蔵は同年同月三〇日死亡し、同人の三男である被告山村太一が同年四月五日滞納会社及び被告会社の代表取締役に就任したことはいずれも当事者間に争いがない。
ところで<証拠省略>によれば、滞納会社は昭和三七年三月三一日現在において当時の代表取締役であつた山村市蔵に対して、金一、五三六万二、一二三円の貸付債権を有していたところ、昭和三七年四月一日山村市蔵より別紙目録二記載の建物(買入価格八六四万七、二七一円)および別紙目録四記載の宅地(買入価格一九三万一、二〇〇円)ならびに別紙目録三機械装置中、電機設備一式(野上電気工事分)モーター二台、並びに電動機中一台撚糸機四台を除く分及び荒巻整経機一台、其の他(其の他の買入価格二七万二、五〇三円)(機械装置買入価格計九九〇万〇、七二七円)合計買入価格二、〇五七万九、一九八円を滞納会社に譲渡しその譲渡代金の一部を右貸付債権と相殺したことを認めることができる。
又<証拠省略>によれば滞納会社には、昭和三八年四月一日現在において原告主張のとおりの国税債務が存していたことを認めることができる。しかるところ、<証拠省略>を綜合すると、滞納会社は同日臨時株式総会を開催し、別紙目録二記載の建物及び別紙目録三記載の機械装置を含む別紙目録一記載の資産負債を、目録の価格により被告会社に譲渡し休業する旨の決議をなした一万被告会社においても同日臨時株主総会を開催し、滞納会社の右決議事項にかかる財産を譲り受けることを決議したこと、そこで滞納会社は同年三月三一日休業すると共に右両会社は同年四月一日をもつて(三一日限り)右決議事項にもとづいて右建物及び機械装置を含む資金負債の譲渡を行つたことが認められる。而して右建物については、これが所有権移転登記をたさず依然として山村市蔵名義となつていることは当事者間に争いがない。
そこで、本件譲渡行為が詐害行為になるかどうか検討するに、<証拠省略>によれば滞納会社は右譲渡時において右譲渡物件以外に左記資産を有していたことが認められる。
(1) 松阪市船江町五五五番地の二
家屋番号船江第六三番
建物 一一棟 延面積 三一六坪八合
(右工場内にある工場抵当法第三条目録物件を含む、ただし本家屋には国税債権に優先する株式会社百五銀行の債権元本極度額二〇〇万円の根抵当権が設定されていることが<証拠省略>により認められる。
(2) 松阪市船江町字大門五五五番地の二
宅地 四〇三坪七合三勺
(3) 動産(什器備品)一六点
(4) 動産(前記工場抵当法第三条目録物件以外の機械)三三点
(5)(6) 別紙目録第四記載の宅地
((6) 宅地には船江町字内方五一九番地、家屋番号五一九番の建物とともに国税債権に優先する株式会社百五銀行の債権元本極度額五百万円の根抵当権が設定されていることが<証拠省略>により認められる。)
尚前記各証拠によれば、以上の物件の昭和三八年四月一日現在の価格は慨ね(1) 及び(2) は計六四五万八、〇〇〇円(4) は金一八八万四、〇〇〇円<証拠省略>(5) (6) 合計一九三万一、二〇〇円<証拠省略>合計一、〇二七万三、二〇〇円((3) は無価値である)であるが前述のとおり(1) 物件には国税債権に優先する金二〇〇万〇、〇〇〇円の根抵当権の設定ある被担保債権があり((6) 物件については共同抵当物件の価格が明らかでないから、その被担保債権配分権も定かでなく従つて一応金額資産として計上する外ない)したがつて国税債権が担保されるのは八二七万三、二〇〇円にとどまることになる。
したがつてこれらの資産のみを以てしては、前記国税債権一、九二六万四、六六四円から金八二七万三、二〇〇円を差引いた金一、〇九九万一、四六四円の不足を生ずる。つまりこれらの資産を換価処分しても滞納会社は無資産となり且前記金額の滞納額が残存することとなる。尤も前記滞納会社より被告会社には、資産の部に慨ね見合う負債も譲渡されていることは当事者間に争いのないところであるが、原告の債権を担保するのはあくまで滞納会社の積極財産のみであつて、それが他に譲渡され、その結果滞納会社が無資力となる以上負債の譲渡の有無に拘らず滞納会社の右行為は詐害行為となることは論をまたない。
而して<証拠省略>によれば右譲渡当時の滞納会社の代表者山村市蔵は新設備を増強する意図を有していたところ、厖大な滞納金があるのでそのまま新設備を増強すると従来の設備だけでは右滞納金に不足するため新設備に対して差押を受ける恐れがあるので、いわば第二会社というべき被告会社を設立したことが認められ、而も前記認定事実及び<証拠省略>によれば滞納金と差押物件並びに社長名義の土地を残して、前記建物、機械設備等を被告会社に譲渡し、そのまま操業を続けている以上、滞納会社には債権者たる原告を害する認識があつたことは明白である。
なお本件被詐害債権である租税債権は昭和二九年四月一日ないし昭和三一年五月一日に滞納となつたものであること前配認定の如くである、ところで、新国税徴収法第三八条の規定は同法附則第七条の規定によつて、新法施行後に滞納となつた国税について適用されるもので新法施行前に滞納となつている国税については、従前の例によることとされているところ新法の施行期日は国税徴収法の施行期日を定める政令(昭和三四年一〇月三一日政令一二二八号)によつて、昭和三五年一月一日から施行されるものであるから本租税債権には新法の適用はなく、旧国税徴収法には新法第三八条に相当する規定はないので、本件について民法第四二四条の適用は適法である。
よつてその後の訴外会社の資力につき特段の主張立証がない本件においては、原告の被告に対する別紙目録二および三記載の各物件についてなされた滞納会社と被告会社との間の譲渡契約を取消し、右物件中別紙目録三記載の機械装置について自己にその引渡を求める請求は理由がある。
而して別紙目録二記載の建物については山村市蔵より滞納会社へ譲渡せられたこと前記認定の如くであり、従つて同人は滞納会社に対し所有権移転登記手続義務を負うものであつたが、前記の如く同人は昭和三八年三月三〇日死亡し被告山村太一、同山村たま、同山村常夫、同山村和子、同山村好治、同山村きぬ子、同山村静子、同山村弘、同中湖幸子らが右相続人たることは両当事者間に争いがないので同人らが右所有権移転登記手続義務を承継したものというべきところ、右建物の所有名義が依然山村市蔵となつていること当事者間に争いがなく、而も滞納会社が無資力であること前記認定の如くなる以上、債権者たる原告が右滞納会社に代位して右被告らに対してする前記建物についての所有権移転登記手続の請求も理由がある。
(一九三号事件の事実及び理由省略)
よつて原告の請求はすべてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 後藤文雄 杉山忠雄 川田嗣郎)
別紙目録一ないし四<省略>